北朝鮮ミサイルの「新たな脅威」 早急に対応を検討せよ


 北朝鮮が3月6日、日本に向けて弾道ミサイルを4発発射した。安倍晋三首相は即日、「北朝鮮の脅威が新たな段階に至った」と明言した。これは以下の事実から見て妥当な発言である。

 

① 北朝鮮が初めて4発同時のミサイル発射実験を行った

② TEL(移動式発射装置)、固体燃料を用いており、いつでも、どこからでも発射が可能である

③ 同じ理由で事前の発見が困難である

着弾地点がこれまでで最も日本本土に近かった可能性がある

⑤ 北朝鮮が在日米軍基地を狙った訓練と明言した

 

 これらのことをまとめると、北朝鮮がその気になれば、在日米軍基地がある横須賀や佐世保、岩国、沖縄を同時多発的に攻撃できるということになる。もしこの弾頭に核兵器、あるいはVX等の化学兵器が搭載されれば大変な事態になる。日本のある自衛隊幹部はこの事実について、「4発同時は厳しい。イージス艦配置など態勢変更を考えないといけない」(ソウル時事、3月7日)と述べている。

 

 北朝鮮といえば、金正男氏殺害は奇妙な事件だった。まず事件が密室ではなく、監視カメラが多数設置される国際空港で起きた。そしてそのカメラには北朝鮮の国家保衛省、外務省の人物が複数映っている。事件は金正恩委員長直接の指示であったことが誰の目にも明らかだ。

 

 また事件は、北朝鮮の友好国であり、マネーロンダリングの格好の場であったマレーシアで起きた。マレーシア当局としては、捜査を曖昧にすれば不法がまかり通る国であると世界中に示すことになる。だから強い態度で臨まざるを得ない。こうして北朝鮮は貴重な友好国を一つ失った。そして事件が国際的に知れ渡ることによって、北朝鮮は孤立をさらに深めたのである。

 

 金正恩氏が精神的に追いつめられているとはいえ、これだけの失態を犯したのはなぜなのか。その理由の考察は本稿の目的ではないから省略するが、北朝鮮が現在、何をしでかすかわからない国となっていることは間違いない。「日本へのミサイル攻撃はプラスにならないよ」と説得しようとしても、その理屈が通じない可能性が高いのである。

 

 そんな国が日本のすぐ隣にある。指令があればいつでも要人を殺害しうる工作員が、日本国内にも多数入り込んでいる可能性がある。そして今回のミサイル発射実験の標的は日本だった。日本は果たして従来の安全保障体制で本当に国民を守ることができるのか真剣な議論が必要である。

 

議論できない民進党

 この重要なときに、最大野党の民進党はいったい何をしているのだろうか。国会では森友学園事件について盛んに追及しているが、それがどれほど重要な問題といえるのか。

 

 ご存知のように森友学園事件の本質は、国有地の売却時に不当な関与があったかどうかにある。もちろん国有地は国民の財産だから、不法行為があったのであれば解明されるべきである。しかしその件と、安倍首相夫人が無理に同学園の名誉会長にさせられたこと、あるいは籠池氏が勝手に「100万円の寄付をもらった」といっていることは何の関係もない(万が一もらったとしても法的に何の問題もないが)。一時は稲田朋美防衛大臣が民事裁判に出廷したと大騒ぎしたが、今では話題に上がることすらほぼない。野党の目的は問題の究明ではなく、安倍政権のイメージダウンでしかないのだ。民進党が本気で政権交代を考えるなら、国会では日本の安全保障体制の議論により多くの時間を費やすべきである。何故そうしないのかといえば理由は簡単で、党内の意見がまとまらないからだ。

 

 蓮舫代表は3月12日の党大会で、メインの政策として「原発ゼロ基本法案」の作成を訴えた。しかしこれも党内の意見が割れていて、連合の神津会長も「実現可能な政策でなければ国民の信頼は得られない」(NHK NEWS WEB、3月13日)などと牽制した。つまり民進党が党を挙げて取り組み、かつ自民党と差別化を図ることのできる政策はほぼ存在しないのである。

 

 となれば民進党に残された道は、自民党のイメージを下げることしかない。その結果が前述の印象操作である。残念だが、この状況で安全保障に関する議論が国会で前進するはずがない。そこで今回は、北朝鮮の「新たな脅威」にいかに対抗すべきか、その方策について検討することにする。しつこいようだが、本来は国会で議論されるべき内容である。

 

1 THAAD配備

 終末高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備が進められている。中国が猛反発し、「韓国叩き」を続けているが、日本にもこのTHAADを配備してはどうかという議論がある。

 

 THAADとは、「終末高高度」という言葉が示すように、敵国の弾道ミサイルが大気圏外で最高点を通過した後、高度を下げて大気圏に突入してきた最終段階で迎撃するミサイルである。現在の日本のミサイル防衛システムは、イージス艦の迎撃ミサイル「SM3」による大気圏外における迎撃と、着弾直前の地対空誘導弾「PAC3」による迎撃という「2段構え」になっている。これにTHAADを加え、「3段構え」にすればより安全ではないかというわけである。

 

 しかしこれには課題が多い。第一に、SM3はTHAADより高性能で、さらに来年にアップグレードした「SM3ブロックⅡA」に置き換えられる予定である(現在は「ブロックⅠA」)。わざわざ性能で劣るTHAADを新たに配備する理由はないとの指摘がある。

 

 次に、THAADの射程範囲は200km程度で、韓国なら1カ所の配備でよいが、日本全土をカバーするには数十カ所の配備が必要になる。これは日本の国土が、北朝鮮から見て横に細長く広がっているという事情による。これに対してイージス艦は、北朝鮮から400km以内の海域に一隻配備すれば、日本全域をカバーすることが可能である。

 

 第三に、地上配備のデメリットがある。THAADを配備すればテロリストによる攻撃から守るための対策が必要になる。また、地元住民による反対運動も予想される。イージス艦の場合、洋上にあるのでテロリストが接近するのは困難だ。地元住民の反対もない。

 

 第四に機密情報の問題である。韓国の場合、THAADが配備されるのは韓国軍ではなく在韓米軍である。しかし日本の場合、配備するのは自衛隊だから、米軍が機密情報の流出を懸念し配備に反対する可能性がある。

 

 そして最後に費用の問題である。稲田氏は今年1月にグアムの米軍基地を訪問し、THAADを視察したが、その際に配備の「具体的な計画はない」と断言した。最大のネックは数千億円とされる高額な費用である。

 

 以上の5点から、THAAD配備は韓国においては有効だが、日本で同様というわけではない。対費用効果を考えれば、ベストミックスとは言えないだろう。

 

2 敵基地攻撃能力

 自衛隊には「専守防衛」という基本戦略がある。これは先制攻撃は行わず、侵攻してきた敵を自国の領域において撃退するという方針である。

 

 そしてこの基本戦略ゆえに、自衛隊は敵の策源地(敵基地)を攻撃する能力を保有していない。たとえば日本が北朝鮮からミサイル攻撃を受けた場合、自衛隊は迎撃に専念する。しかし迎撃だけでは抑止力としての効果が低い。また迎撃に成功しても、第二第三の攻撃に備えなければならない。

 

 そこで日本の防衛戦略では、米軍が敵の策源地を攻撃することになっている。つまり日本の防衛は、「米国が日本の防衛義務を絶対に果たしてくれる」という大前提で成り立っているのである。

 

 この点について小野寺五典元防衛相は国会で、米国がこれからも超軍事大国であり、かつ「世界の警察官」としての役割を果たし続ける保証はない。ましてやトランプ米大統領は防衛の自助努力を訴えている。安倍首相は今後の日本の安全保障をどう考えるのか。敵基地攻撃能力の保有も含めて検討すべきではないかと問いただした(1月26日の衆議院予算委員会)。

 

 実に妥当な質問である。本来なら野党がこうした質問をしてくれればよいが、それが望めないことは上述の通りである。そして安倍首相はこの質問に対し、敵基地攻撃能力を含め、「さまざまな検討は行っていくべきものと考えている」と答弁した。

 

 THAAD配備に比べれば、敵基地攻撃能力保有のメリットは多い。第一に迎撃よりも危険性の排除が確実である。第二にコストが格段に低い(THAADが数千億円であるのに対し数百億円)。第三に敵国の独裁者に対して、「ミサイル基地のみならず自分も狙われるかもしれない」との恐怖感を与えられる。これは抑止効果として大きい

 

 ただし検討すべき課題もある。まず法的問題だ。憲法との整合性については1956年に鳩山一郎内閣が、「他に手段がない」場合に限り「自衛の範囲」であり可能であるとの見解を示している。では「他に手段がない」とはどのような状況なのか。たとえば在日米軍による攻撃力は「他の手段」に含まれるのか。専守防衛を維持するのか、あるいは撤回するのかという問題もある。

 

 次に北朝鮮のミサイルが移動式のTEL(発射装置)から発射されるのであれば、その正確な場所を確定する必要がある。たとえば湾岸戦争では、米軍が破壊したイラク軍のTELは100基程度だったが、実はその大半はタンクローリーなどを誤認したものだった。これに対してイラク戦争では、情報の精度を上げることで46基のTELを事前に破壊した。これはイラク軍が保有する全TELの55%にあたるものだった。

 

 つまり敵基地攻撃で重要なのは情報収集能力なのである。つまり高精度の偵察衛星、地上監視用の無人航空機、目標を探索する特殊部隊などが必要になる。このうち偵察衛星は3月17日に打ち上げを成功させたが(日本は偵察衛星ではなく情報収集衛星と呼んでいる)、他のすべてを日本が独自で保有するには時間もコストもかかる。だから大半の情報は米軍からの提供を受けることになる。やはり大前提は日米同盟が強固であることだ。

 

 いずれにせよ、政府がこの戦略を採用すれば、運用研究や装備の調達、施設整備などに5~10年程度の時間を要するという。いよいよ脅威が避けられないという段階で決定しても間に合わない。具体的な議論を早急に始めるべきである。

 

3 早期警戒衛星

 弾道ミサイルが発射されれば、噴射される排気ガスから大量の赤外線が放射される。それをピンポイントではなく、広い範囲で探知するのが早期警戒衛星だ。費用は1基約500億円。ちなみに米軍は、3基の衛星で10秒ごとに全世界をスキャンしている。

 

 日本はかつて、宇宙利用は「平和の目的に限る」と制限していたが(1969年国会決議)、2008年に宇宙基本法が成立し、「防衛的な宇宙兵器」の保有が可能になった。しかし日本は未だ早期警戒衛星を保有していない情報は米国頼みである。

 

 もし北朝鮮が日本に向けて弾道ミサイルを発射すれば、着弾までの時間はおよそ10分だ。この間に米国からの情報を航空総隊司令部が受け、防衛省中央指揮所が迎撃の判断を行い、その情報を首相官邸が受けて最終判断し、イージス艦などの現場に伝えねばならない。また、国民に避難情報などを伝えねばならない。米軍の情報提供がわずかでも遅れればすべてが台無しになってしまう。やはり早期警戒衛星も、独自に保有するべきである。

 

4 防衛費1%枠超え

 日本の防衛費は例年、国内総生産(GDP)の1%以内に抑えられている。これは三木内閣の1976年の閣議決定に基づくもので(当時は国民総生産〈GNP〉の1%以内)、これを超えようとすると左派勢力が「軍国主義復活」などと大騒ぎをする。

 

 しかしこの「防衛費1%枠」は87年に中曽根内閣が撤廃済である。今となっては法的根拠はない。むしろ防衛費は、周辺の安全保障環境によって調整すべきであり、必ずしもGDP比に縛られるべきではない。日本の周辺には北朝鮮の脅威に加え、中国の脅威も存在する。そしてその両者が毎年増強を続けている。この状況で「1%枠」にこだわるのは逆におかしな話である。

 

 トランプ米大統領の発言で知られる通り、北大西洋条約機構(NATO)は加盟国に対し、防衛費をGDP比2%以上にするよう義務付けている。防衛費増加を批判する左派勢力は、NATO加盟国が「軍国主義」であると証明できるのか。

 

 安倍首相は国会で、「安倍政権にはGDPの1%以内に防衛費を抑える考え方はない」(参院予算委3月2日)と述べた。ぜひ安倍首相の在任期間中に、GDP比1%に捉われない予算編成を決定し、よい前例としてもらいたい。

 

国際勝共連合 教育部長 中村 学

(「世界思想」2017年5月号より転載)

 

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