金正男氏、暗殺の背景は?


 金正男氏が暗殺されました。同氏は北朝鮮のトップである金正恩委員長の異母兄弟です。一時は金正日氏の長男として、後継者になると見られていました。2001年に偽造パスポートで来日したことが発覚し、後継者争いから完全に離脱したといわれています [1]。

[1] ドミニカ共和国の偽造パスポートを用い、中国人の偽名で入国を図った。当時の日本政府は、北朝鮮にいた日本人観光客の人命保護のために超法規的措置でマカオに追放した。正男氏は「東京ディズニーランドに行きたかった」と語っていたという。

 

 正恩氏としてはやっかいな存在でした。政府に敵対する勢力が、「正男氏こそ正当な後継者だ」と担ぎ上げ、クーデターを起こす可能性があったからです。実際、正男氏自身も、「(北朝鮮の)政権世襲には反対する」「(叔父の金正恩は)独裁者だ」「(北朝鮮の経済再生は)改革開放を進める中国式のやり方しかない」などと発言していました。

 

 大きな転機となったのは2013年でした。正日氏の妹の金敬姫氏と、その夫である張成沢氏が正男氏を保護していたのですが、それが「クーデター謀議」とされて張成沢氏が処刑されてしまったのです。こうして正男氏は強力な後ろ盾を失いました。その後は中国が、金一族へのパイプ役として保護してきたといいます。

 

 暗殺の直接的な理由は明らかではありませんが、いくつかの理由が考えられます。「正男氏が韓国に亡命を打診し、それを阻止するために殺害した」「北朝鮮国内が極めて不安定で、正男氏を殺害しなければクーデターを防げない状態になっている」「北朝鮮が中国に配慮することを完全にやめてしまった」などです。

 

 真相はまだわかりません。しかし事件を通して、中朝関係がさらに悪化したことは間違いありません。北朝鮮はこの事件の直前にも、日米首脳会談の最中、中距離弾道ミサイルの発射実験を行いました。韓国に高高度地域防衛ミサイル(THAAD)を配備する格好の材料になってしまいました。

 

 北朝鮮の孤立化が進んでいます。日本としては、あらゆる事態に備えておくべきです。とりわけ、アメリカと韓国とは緊密な連携をとらなければなりません。韓国との関係は現在、不安定な状況にありますが、安全保障問題は切り離して対応すべきです。